携帯衛星放送受信機
“With Me”衛星放送

写真1: “With Me”衛星放送
受信機プロトタイプ
写真1: “With Me”衛星放送受信機プロトタイプ
 
写真2: モバイル放送株式会社
ブース(1)
写真2: モバイル放送株式会社ブース(1)
 
写真3: モバイル放送株式会社
ブース(2)
写真3: モバイル放送株式会社ブース(2)

近頃では携帯電話でテレビが見れちゃうようになっているわけですが, 実際に携帯電話でテレビ鑑賞している人て あまり見かけないように思います. そういえば,持ち歩けるテレビ=ポータブルテレビはずっと昔からありますが, 実際に持ち歩いている人を見たことがありません.

いろんなものが“携帯”できるようになってきていて, 実際移動中などに情報にアクセスする手段は多様になってきているのに, テレビだけがおいてけぼりになっているのはどうしてなのでしょう. 考えられる原因としては以下の3つのレベルのものがあると思います.

# ユーザのきもち 阻害要因
(1) 移動中などにテレビを見たいとは思わない そもそもニーズがない.
(2) 見たいけど人目が気になる ニーズはあるが社会的な合意形成が不十分なため心理的に利用しづらい.
(3) 見れたもんじゃない 潜在的ユーザは大勢いて,すぐにでも使い出したいと思っているが, 技術的に実現できていない.

電車の中でラジオを聴いている人はよく見かけることから考えて, ニュースなり,野球中継なり,移動中に“放送”にアクセスすることに興味がある人はそれなりにいると思いますので, (1)ニーズがないわけではないと考えられます. また(2)についても,メールを読むために携帯電話を覗き込んでいる姿はもはや違和感のあるものではなくなっているため, 携帯電話にヘッドフォンをつないでテレビ中継を見るというスタイルに,それほど心理的な抵抗があるとも思えません. だとすると,“携帯テレビ”の普及を妨げているのは単純に(3)技術的な要因だといえるのではないでしょうか.

だいたい地上波テレビ放送というのは(これから普及するであろう地上波デジタルは別として) 家の屋根に大きなアンテナを立てていても,ゴーストが出たりして, なかなかよい受信状態にはならないものです. 携帯電話など実装できるサイズの小さなアンテナで, しかも乗り物の中や建物の影から受信しようというのは, かなり無理があるといっていいでしょう. 何かしら時代の要請にあった新しい技術が必要になっていると思います.

移動体向けモバイル衛星放送“With Me型”放送サービス

携帯テレビの本命はパケット網で動画をストリーミング配信する方式だろうなぁ…と,ぼんやり思っているわけですが… 先日,東京国際アニメフェア2004で面白いものを見つけました. モバイル放送株式会社の移動体向けモバイル衛星放送サービス “With Me”衛星放送というモバイル放送サービスです. 衛星放送というと「お皿アンテナ」を思い浮かべてしまうので,持ち歩くイメージとは結びつきにくいのですが, モバイル放送株式会社のパンフレットの解説を読むと, 実は衛星放送=お皿アンテナとは限らないらしいのです. 実際,モバイル放送株式会社が展示していたプロトタイプには,いわゆるアンテナらしきものはなくて, 見た目はゲームボーイアドバンスSPみたいな形状(写真1)です (サイズはゲームボーイアドバンスSPよりひとまわり?ふたまわり?大きいです). なんでも,モバイル放送用衛星(MBSAT)が放出する 2.6GHzの信号を内蔵パッチアンテナ(棒や皿ではなく小さな四角形のパッチ状のアンテナ)なるもので受信するのだとか…. 技術的なことはよくわかりませんが(^_^;), とにかく,ゲームボーイアドバンスSPみたいな機器で,衛星放送が見られるということのようです.

“With Me”衛星放送を見るための端末の形態は,写真1のプロトタイプのようなものに限るわけではなく, デコード等に必要な数個のLSIとパッチアンテナを実装できるものなら,どんな機器とも組み合わせられるため, 携帯電話に内蔵したり, PDA用にコンパクトフラッシュのチューナーカードにしたりすることも考慮されているとのことです. したがって,携帯電話やPDAとは別にもうひとつデバイスを持ち歩かなければならないというわけではないようです.

コンテンツは?

こういう新しい技術が普及するかどうかは,なんといってもコンテンツの魅力にかかっているわけですが, 2004年3月の時点では具体的な話はまだ聞けませんでした. ただ,66チャンネル(うち55は音声チャンネル)提供可能ということなので, 地上波テレビ並みにはコンテンツ提供の幅があるのだろうと思います (※注:66チャンネルのうち55が音声チャンネルであることは明示されていましたが, 残りの11チャンネルすべてが映像チャンネルかどうかはパンフレットの記載からはわかりませんでした).

東京国際アニメフェア2004の“With Me”衛星放送のブースでコンテンツの資料が配布されていたのは, タカラ モバイル エンタテインメント株式会社 提供のチャンネル「TAKARAND(タカランド)」だけでしたが, 出資企業を見ると,電通や日経,博報堂,角川などのコンテンツプロバイダ, 日本テレビやWOWOWなどのメディアもたくさん入っていますので, これらの企業が何らかのコンテンツを提供するのだろうと思います.

普及の原動力は?

モバイル放送株式会社の出資企業を見ると, 東芝,SKテレコム,トヨタ自動車,NTTデータ,日本テレビ,…と有名企業がずらりと72社並んでいます. デバイス提供者になるであろう,東芝,松下電器,日立などの総合電気や, 日本テレビ,WOWOW,エフエム東京などのメディア系, 電通,タカラ,日経,博報堂,角川などのコンテンツプロバイダが入っているのは当然かなと思いますが, 目を引くのが, トヨタ自動車アルパインデンソーアイシン・エイ・ダブリュダイハツ工業富士通テンイエローハット などの自動車関係企業がたくさん入っていることです(けっこうトヨタ系にかたよっている気はしますが). これには理由があって,“With Me”衛星放送は普通の衛星放送と違い, トンネル内やビルの谷間でも受信できるように「ギャップフィラー」という小型の基地局をおいて不感地帯を少なくし, ビルが多い街中やトンネル内を走る自動車でも受信できるように工夫しているためです. これらの自動車関連の企業は車の中でテレビを見れるようにするアイデアに期待しているというわけです.

モバイル放送株式会社のパンフレットには,いろいろな利用シーンがのっているのですが, もっとも有力そうに思えるのが,ファミリーカーへの車載のように思います. テレビはみんなで見るもの・団欒の場にあるものというイメージがあるので, イヤホンを使わずスピーカーで音を出してみんなで見れる車の中にはぴったりです. あとは,出張のときに新幹線の中で野球中継を見るというような利用方法が有力でしょう. この2つは相当数の潜在ユーザがいると思います.

おまけ話:ポータブルテレビの主戦場はお風呂に?

家電量販店のWebページで「ポータブルテレビ」を検索してみるとわかるのですが, 最近のポータブルテレビはお風呂をメインフィールドにしているようです. ヨドバシカメラで検索してみると, 2004-06-20時点で31機種がリストアップされ,うち20機種は防水タイプでした. しかも,売れ筋上位3製品はすべて「お風呂で使える」ことをウリにしており, No.1のカシオSY-4100WEと No.3のカシオSY-6000にいたっては, 愛称がズバリ「お風呂テレビ」です(それにしてもポータブルテレビはカシオの独断場になってるなぁ). そういわれてみると,お風呂にはいりながら,ニュースを流し聞きするとか, それなりに利用シーンが思い浮かびます. また,お風呂なら移動体と違って受信状態のよい位置を探して設置すればよいわけで, それなりに見れるものになりそうです.

ポータブルテレビ31機種を大雑把に分類すると防水で安価な「お風呂テレビ」系と ソニーLF-X1「エアーボード」のような超高機能テレビの2系統になるようです. お風呂テレビが売れ筋なのは2万円ちょっとから買える手軽さも受けているのでしょうね.

参考リンク



はたいたかし(連絡先はこちら
2004/03/27 初稿
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