ステルス技術

RCS低減技術

形状（レーダー反射断面積（Radar Cross-Section; RCS）の最小化）
- エッジマネージメント
  - 主翼後退角などエッジの角度をそろえることでRCSが大きくなる方向を限定する．
  - 兵器倉（wepons bay）や降着装置（landing gear）の扉なども段差や隙間が生じないようにし，扉の形状もエッジの角度をそろえる．
  - 継ぎ目の溝や隙間をレーダー波吸収剤で目張りする（outer mold-line coatings）．
- 曲がりダクト
  - 空気取入口を曲げることでエンジンに直接レーダー波があたって乱反射するのを避ける．
- ダイバーターレス超音速インレット（diverterless supersonic inlet; DSI）
  - ダイバーターとは，胴体と空気取入口との間に設けられた境界層空気流を逃がす隙間のことで超音速飛行時に発生する衝撃波によるエンジンに向かう空気流への悪影響をなくすためのもの．
  - ダイバーターはコーナー反射の原因になるためステルス性の観点からはない方が望ましい．
  - DSIにすると速度性能は低下する．F-35でマッハ 1.6 程度に抑えられている．
- 兵器倉（weapons bay）
  - レーダー波反射の原因になる機外搭載品をなくす．
素材
- レーダー波吸収素材（Radar Absorbent Material; RAM）
  - コーティング素材の内部に炭素や強磁性体（フェライト）粒子が含まれていて内部に入り込んだレーダー波が反射を繰り返して減衰する．
  - 特殊素材のためコストが高い．
  - 飛行により摩擦などではがれるため定期的に再コーティングが必要．
- キャノピー・コーティング
  - コックピット内へのレーダー波の侵入を低減し，コックピット内での乱反射を抑える．
  - F-117 や F-22 では金のフィルムを使用していて透明度が低かった． F-35 では透明になっている．

RCS参考値

表　RCS参考値
対象物	RCS [m²]
巡洋艦（全長 200 m）	14000
B-52	100 〜 125
C-130	80
F-15	10 〜 25
F-16A	5
F/A-18C	1 〜 3
F-117A Nighthawk	0.025
B-2A Spirit	0.1
F-22A	0.0001 〜 0.005
F-35A	0.0015 〜 0.005
鳥	0.001
虫	0.00001

カウンターステルス

ステルス機を探知可能なレーダー

巡航ミサイルなどの低RCS目標に対応できるレーダーであればステルス機の探知が可能．
- 巡航ミサイルはステルス技術は用いられていないがサイズが小さいためRCSも小さい．
- 巡航ミサイルを探知できるレーダーシステムであればステルス機も探知できる．
LバンドやUHFバンドのような低周波域はステルス機の探知能力があるといわていて研究が進んでいる．

具体例

J/FPS-5（通称ガメラレーダー）
- LバンドとSバンドを組み合わせたレーダーシステム．
- ステルス機に対する能力は不明だが，弾道ミサイルの追跡に成功している．
- ドームの模様が亀の甲羅のようなのでガメラレーダーという愛称がついている．
E-2D Advanced Hawkeye
- AN/APY-9 電子走査アレイレーダーがUHFバンドを使用しているため探知能力があるといわれている．
- 時空間適応処理（STAP）技術を組み合わせることで巡航ミサイルなどの小型目標の探知能力が向上している．

レーダーの周波数帯
バンド名	周波数帯	用途など
HF	3 〜 30 MHz	高周波．沿岸監視レーダー，水平線越えレーダーなどの超長距離を超す探知用．
VHF	30 〜 300 MHz	超高周波．超長距離探知用．
P	300 MHz	初期のレーダー．HFやVHFを補完したバンド．旧式．
UHF	300 〜 1000 MHz	極短波．弾道ミサイル早期警戒レーダーなど．
L	1 〜 2 GHz	長距離レーダー．航空交通管制など．
S	2 〜 4 GHz	中距離レーダー．飛行場周辺管制，長距離気象用など．
C	4 〜 8 GHz	衛星トランスポンダー，長距離追跡用など．
X	8 〜 12 GHz	ミサイル誘導，戦闘機用など． Xバンドのうち 10.525 ± 25 MHz の周波数帯は空港の管制レーダーが使用．また 9 GHz は精測進入レーダー（PAR）で使用．
Ku	12 〜 18 GHz	戦闘機用など．Xバンドより高解像度．
K	18 〜 24 GHz	雲の探知用，気象用など．
Ka	24 〜 40 GHz	マッピング，空港周辺短距離管制用など．
V	40 〜 75 GHz	レーダー・通信衛星．
mm	40 〜 300 GHz	ミリ波．短距離レーダー．攻撃ヘリコプターの火気管制用など．

ステルス機は特に X バンドと Ku バンドに対して高いステルス性が求められる．
- 特定の周波数帯で高いステルス性があれば他の周波数帯でも探知しにくいため，各周波数対特有の対策をする必要はない．

その他の探知方法

赤外線探知
- ロシアの近年の戦闘機は全機種が赤外線探索追跡装置（infra-red search and track system; IRST system）を装備している．
- F-35が機首下面に備えている AN/AAQ-40 電子光学目標指示システム（EOTS）も IRST と同等の機能がある．
- IRSTはパッシブ式センサーのため目標は補足されていることに気づけないのも利点．
- アメリカ軍では現在のところ複数目標との同時交戦能力がないことや作戦行動の柔軟性がないことから優先度が低くなっている．
視覚による探知
- 飛行機雲ができると視認される可能性が高くなる．
- 湾岸戦争で F-117 が夜間に爆撃を行っていたのは目視発見を避けるため．コソボ紛争のNATO空爆でも F-117 / B-2 のミッションはすべて夜間に行われている．
- 飛行機雲ができるメカニズムは完全には解明されていないが，排気中の水分が氷結することが原因のひとつと考えられるため， B-2でエンジン排気部に吸湿効果のある塩化スルホン酸を流し込んで飛行機雲を消す方法も試されたが，完全に消すことはできず，塩化スルホン酸が非常に強い酸性でタンクやパイプの腐食が早く高頻度での修理が必要だったり，作業員も危険だったりしたことから使用を中止している．
音（騒音）による探知

ステルス機年表

1981-06-18	Lockheed F-117 Nighthawk 初飛行．
1983	F-117 実戦配備開始．
1988-12-10	アメリカ政府が F-117 の存在を公式発表．不鮮明な写真を公開．
1989-07-17	Northrop B-2 Spirit 初飛行．
1989-12-19	パナマ侵攻 Operation Just Cause で F-117 が初の実戦参加．
1991	湾岸戦争に F-117 44機が参加．
1997-04	B-2 運用開始．
1997-09-07	F-22 初飛行．
1998-02	コソボ紛争．
1999-03	コソボ紛争で NATOが空爆（同盟の力作戦）を開始． F-117 と B-2 が参加．うち F-117 1機が撃墜される． B-2は初の実戦．B-2がGPS誘導のJDAMでセルビア首都にある中国大使館を誤爆し問題となる． B-2参加の必然性はなく，参加したのはGPS誘導兵器の実戦での運用能力を確認したかったためといわれている．
2001-09-11	アメリカ同時多発テロ事件
2001-10-07	不朽の自由作戦（アフガニスタン紛争の初期の作戦）に B-2 が参加． 5000 lbs（約 2.2 t）のバンカーバスター GBU-28 を使用．情報秘匿とステルス性の維持のためアメリカ本土のホワイトマン空軍基地からの渡洋爆撃という長時間ミッションになった．
2003	イラク戦争に F-117 と B-2 が参加． F-117 はこれが最後の実戦任務となった．
2005-12-15	F-22 運用開始．
2008-04-22	F-117 全機退役．
2009-11-14	F-35A 初飛行．
2011	2011年リビア内戦
2011-03-19	対リビア戦オデッセイの夜明け作戦に B-2 が参加．ホワイトマン空軍基地から往復無着陸で爆撃を実施．飛行距離は 18,150 km，25時間．
2015-07-31	F-35B 運用開始．

参考文献

青木謙知: 知られざるステルスの技術，SBクリエイティブ (2016)．

はたいたかし
http://exlight.net/
2023-05-26

Home > Military > Stealth